2011年3月1日火曜日

尊い命の誕生

ワーグナーを支持してくれていた大富豪のヴェーゼンドンク氏。ところがワーグナーはこの自分の後援者であった彼の妻(マティルデ)と不倫の関係に陥る。

マティルデは熱烈なワーグナーの信奉者で、彼を神のように崇拝していた為、二人はすぐに恋人同士となった。不倫の恋に悩むワーグナーとマチルデの姿が、オペラ「トリスタンとイゾルデ」の苦悩に投影されている。
「トリスタンとイゾルデ」と並んで作った歌曲が「ヴェーゼンドンク歌曲集」である。

究極のロマンティシズム5曲で綴られるこの歌曲集を私はとても愛している。
これまでにリサイタルで何度かプログラムに入れたことがある。私の最も好きな後期ロマン派のドイツ歌曲のひとつ。
いつかオーケストラ伴奏で歌うのが夢だ。

はやりR・シュトラウス、ワーグナー、マーラーの歌曲はオーケストラが合う。

ヴェーゼンドンクはワーグナーが女声とピアノのため作曲したもの。その後5曲目の『夢』に管弦楽伴奏をつけて、マティルデの誕生日に、室内オーケストラによって、窓越しに聞こえるように演奏されたといわれる。
窓越しでそれを聴いた彼女の気持ちを思うと苦しくなる。

1. 天使 Der Engel
2. とまれ Stehe still!
3. 温室にて Im Treibhaus
4. 悩み(心痛) Schmerzen
5. 夢 Träume

そして、その昔このヴェーゼンドンク歌曲にぴったりあう曲がプレゼントされた。またいつかこれを歌う機会に巡り合えればと思う。

「トリスタン」

美はしきもの見し人は
はや死の手にぞわたされつ、
世のいそしみにかなはねば。

されど死を見てふるふべし
美はしきもの見し人は。

愛の痛みは果てもなし
この世におもひをかなへんと
望はひとり痴者ぞかし

美の矢にあたりしその人に
愛の痛みは果てもなし。

げに泉のごとも涸れはてん
ひと息ごとに毒を吸い
ひと花ごとに死を嗅がむ

美はしきもの見し人は
げに泉のごとも涸れはてん

~プラ―テン~